俺が病院に辿り着いた時、すでに受付は薄暗くなっていた。


「どうしました?」


たまたま通りかかった看護師に声をかけられた。

こういう場所に勤めている人は、とても冷静なのだろう。


「さっき……事故で運ばれた…………高校生の…………」


俺が支離滅裂な事を言っても


「あの、ご家族でいらっしゃいますか?」


と、機械的な質問を投げかけてくる。


「ええと……そうじゃなくて……」

「ご家族ではないんですか?」


家族ではない。

でも、家族以上の存在だ。

俺にとっては。

でも、こういう場所で求められている答えはそうじゃないことくらいは、分かっているつもりだ。


「家族では……ないです……」

「では、申し訳ありませんがお教えすることはできません。お引き取りを」


そう言って、看護師は、俺が走ってきた時よりもずっと機敏な動きで、歩いて行った。


どうしよう。

こんなところに取り残されて。

琴莉が無事かどうかすら分からないまま、家に帰るのは嫌だ。


せめて、フロア図を探そう。

そう思って立ち上がった時だった。


「あなた……どうして……」


琴莉の母親が、憔悴した顔で俺を見ていた。

俺がよく琴莉の家に遊びに行っていた頃より、白髪も皺も増えてはいたことは知っていた。

たまに会釈をするくらいの交流はあるけど。

でも、目の前に立っている人は、俺の最も新しい記憶の中の人の何倍も、老けているようだった。

一瞬、別人かと思うくらい……。

声を出してくれなければ、気づけなかったかもしれない。



「あ、あの……琴莉……が事故に遭ったって聞いて、それで……」


その瞬間、俺の頬に強い痛みが走った。




「あんたのせいで!琴莉が事故に遭ってしまったのよ!!!もし琴莉が死んだら、あんたのこと一生恨むから」