バレンタインデーの放課後。

みんなが浮き足立っている。

私は、息ができないくらい、緊張していた。

私は立川先輩に


「体調不良で休みます」


とラインを打ちながら、そっとアイツとのトーク画面を見る。

既読がついている。

今朝のことだ。

そして、この時間まで、返信がなかった。

それが答えなのだろうかと、自分の中で納得しそうになった。

だけどもし認めてしまえば、公園で待ち続ける勇気はきっと持てないだろうと思った。

だから、返信がなかったのは忙しかったからと、脳内のアイツに、私が好きな声で喋らせながら、公園へと向かった。

最初は、ベンチで待った。

5時、6時になって、公園で遊んでいる子どもたちが帰り始めた。

代わりに制服姿のカップルが、手を繋いで現れ、ブランコを漕ぎ始めた。

私はそれを見ながら、ふとこんなことを考えてしまった。

自分とアイツも、かつてあんな風に一緒に遊んでいた。

もしあのまま、今の私とアイツになることができたら、あんな風になれたんだろうか。

どちらかが何かを話す度に、大声で笑い合える、そんな2人に。

でも、なれなかった。

だから、こうして私は今1人でいる。

来てくれとお願いをしても、来てくれるかわからない……そんな、ちょっとした衝撃で壊れてしまうような、そんな関係にしか、なれなかった私たち。

ふと、スマホの時計を見るとあっという間に8時になっていた。

まだ、アイツの姿もないし、返事もない。

目の前のカップルも、消えていた。


私は、カバンから渡せたら、と願ったチョコレートを取り出した。

精一杯の気持ちで作った。

カードも、書いてみた。

きっと、言葉だけじゃ伝えきれないと思ったから。

でも、もう、いいや。

これが、アイツの答え。

私の、アイツとの物語の終着点。


「帰らなきゃ」


歩きながら、このチョコを食べよう。

そして、書いたカードをビリビリに破いて、どこかに捨ててしまおう。


伝えて振られてしまうより、ずっと私らしいアイツへのケリのつけ方ではないか。

そう思いながら、公園を出た直後。

激しいクラクションの音と、前が眩しいほどのライトに照らされた。







それから私の世界は、無になった。