板チョコ1枚と生クリーム、そして小さなラッピング用の袋を買った。

セールのおかげもあり、ギリギリ500円以内で全て揃えることができた。

急いで家に帰り、スマホで生チョコの作り方を調べた。

お湯を沸かしている間に、チョコレートを切り刻む。

アイツとの思い出を切り刻むように。

とても良い音が、台所に響く。

甘い香りが、私を包み込む。

その香りが、私を自然と笑顔にする。

私が素直になるための勇気をくれる。


ヘラを使い、チョコレートがとろけるまで私はチョコを愛でる。

このチョコレートに、私がこれまで秘めていたアイツへの想いを込めるために。


今までありがとう。

昔、優しくしてくれてありがとう。

琴莉と呼んでくれてありがとう。

好き。

大好き。

もう一度、ナオくんと呼びたかった。

もう一度、あなたの横で思いっきり笑いたかった。


そんなことを考えながら作ったのは、たった1つの生チョコレート。

きっと、他の女の子があげるチョコよりもずっと不恰好で、哀れに見えるだろう。

だけど、これが私の全て。

これが、私そのもの。


「これを受け取って」


と言いながらアイツに差し出して


「こんなちっぽけなもの、俺に合うと思うの?」


と言われようと思った。

そこまでされれば、いい加減吹っ切れる。

アイツの声を聞いても、ときめくと言うことをしなくて済むくらい、嫌いになれるだろう。