その日、私は人生で初めて手作りチョコを作るための材料を買いに行った。

本当は、1箱1000円以上もする高級チョコレートの方が良かったのかもしれない。

でも、バイトもしていない私は、そんなものを買える懐具合ではない。

私が持っているお金が、母親から持たせてもらってる月の学食分だけ。

それをどうにかやりくりする必要がある。

頭の中でぱぱっと計算をしてみると、今月はせいぜい500円くらいしか使えない。

その500円というのは、1食分の学食、もしくは5回分の飲み物代。

それを犠牲にしてまで、本当にアイツにチョコをあげるべきか、少しの時間悩んだ。

でも、たった数秒だった。

贈るべきだ、という判断をすることができたのは。




その数秒で、ありありと思い出されてしまうのだ。

アイツの声、眼差し、かつて一緒にいた日々が。



忘れようと必死に努力をする私を、アイツとの思い出が嘲笑う。

もう、こんな日々は耐えられない。

いっそ、思いっきり嫌いになりたい。

嫌いになってほしい。

優しくなんかされたくない。

無視してほしい。


そうすれば、最初はどんなに傷が痛んだとしても、これ以上深い傷を負うことはもうなくなるから。

後は塞がっていくのを待つだけだから。


だから私は決めた。

チョコを渡して、徹底的にフラれて、深く酷くアイツに傷付けられようと。

二度と、アイツへ分不相応な想いを抱かなくて済むように。