アイツが私に声をかけるのは、アイツの意思じゃない。

義務だから仕方がなく。

女の子達も、大人から与えられた義務に対しては、イライラすることはあっても、その行動を止めさせることはなかなかできることではない。

義務を嫌々こなしているわけでなければなおさら。

だから、口では何かを言えても、実際に手を出すことはしない。

義務をこなしている人間……つまり、アイツを全否定することになるから。

アイツに嫌われることだけは避けたい女の子達にとっては、アイツの行動はどんなものであれ黙認をするルールにでもなっているのだろう。

でなければ、次々と女の子をホテルに連れ込むようなことをしている男に、あそこまでキャーキャーと騒がないだろう。

盛りのついた雌猫のように。



好き、という気持ちはそれくらい怖いもの。

一般常識ではありえないと思えることにも、簡単に蓋をする。

私は、それを自分の身をもって知っている。




どんなにアイツの淫らな噂を聞いてしまっても、毎朝のたった一言の声かけだけで胸がときめいてしまうのだから。

ことりという音を、アイツの声が奏でている間は、アイツの声も、アイツの意志も私だけのものなのだから。

自分で傷をつけ、かさぶたができたらまた傷をつける。

不毛な片思いに、いい加減ピリオドを打たないといけない。



そんなことを漠然と考えているときだった。

立川先輩から予想もしなかったことを言われたのは。