学校では、あいつが私に直接接触することはなかった。

あの日、CDを拾ってもらった、ただの1度きり。

それ以降、私の視界には入ってくることはあっても、私も極力見ないようにしていたし、あいつも無理に私の前に入ってくることはしなかった。


学校では。


それなのに。



「おはよう、琴莉」

「今日も元気か?」



どうしてだろう。

朝の通学時。

アイツはいつも、家の前にいる。

アイツの周りにいる、女の子達を連れて。

放送部の活動のために、私は一般生徒より少し早めに登校する。

私は必ず、アイツの前を通らなくてはいけない。

すれ違う瞬間、アイツは私に声をかけるのだ。

最初は、無視をしていた。

イヤホンをしっかりつけて、聞こえないフリをしたかった。

でも、ある日、聞こえてしまった。



「ねーナオ。あの子、なんなの?」

「あー……妹みたいなもん。あの子のお母さんから頼まれてるんだ。声かけてやってくれないかって」

「えー律儀ー」

「意外ー!!そういうナオくんも、好き!」



なるほど。

そういうことか。

中学の頃、突然不登校になった話でも、母がアイツにしたのだろう。

惨めだと思った。

アイツは、義務で私に声をかけているのだと知ったから。

でも同時に、少しだけホッとした。