「ご、ごめんね!どうしよう、泣かせちゃった!?」


違う。

私が泣いたのは。


「ごめんなさい…………何でもないんです…………」

「何でもなくないでしょう!?」


田村さんは私を抱きしめながら


「立川先輩がごめんね、意地悪したよね、怖かったよね」


と私を撫でてくれた。



「おい、お前のその行為の方が、新入生セクハラだろうが」

「女の子同士でセクハラとは言わないよ」

「性の多様性のことをこの間放送で特集したばかりだろうが」

「それはそれ、これはこれです」


田村さんは、私をより強くギュッと抱きしめながら


「よしよし、お姉さんのお胸でお泣き〜そして放送部に入ってね〜」


と言った。

抜かりのない宣伝の仕方に、私は思わず吹き出した。


「お、笑った!元気になったの?」


本当に元気になったわけではないけれど。

まだ、この涙の意味を、目の前のちょっと面白そうな人達に説明するには、時間と頭の整理が必要そうだけど。


「あの……立川……先輩?と田村先輩?」


私がそう言うと、立川さんと田村さんが、私を見てにっこりと笑ってくれた。

いつも、私が年上に見られる時……家族とアイツ以外はみんな私を睨んできたから、余計に2人の存在が嬉しいと思った。

アイツ以外に、年上の仲が良い人ができるかもという、現実に。

それは、世界が変わっていく、確かな始まりだと感じたから。


「あの……放送部……入ってもいいですか?」


私は、たった1回の感動的な体験と、彼らともう少し話をしたいという理由だけで、今までの自分だったら絶対にしなかったであろう、新しいチャレンジに飛び込む決意をした。

私の言葉を聞き


「うれじいよー!ありがとう琴莉ぢゃーん!!」

「これで、廃部は免れたから、安心して大会の準備ができる」


と、それぞれの言葉で喜びを口にしていたのも、嬉しかった。




ただ、この後すぐ知ることになる。

唯一の想定外に。

私の教室から放送室へ行くためには、必ずアイツの前を毎回通り過ぎないといけないという、悲しい地獄が待っていることに。