神様が、俺にチャンスをくれた日。

俺が学校から帰ってくると、母親がリビングで電話をしていた。


「それで、琴莉ちゃんは最近どうなの?」


と、話をしながら笑っていた。

俺はその名前を聞いて、急いで自分の部屋に荷物を置きにいった。

俺の母親が話をしている相手は間違いなく、琴莉の母親だろう。

この二人が、俺の前で話をしているのは珍しかった。


琴莉が今どうしているのか聞きたい。

今、琴莉はどうしているのか。




元気にしているのか。

笑っているのか。

今年受験のはずだから……行く高校は決まったのか。

そして……彼氏はできたのか。




普段、他の人間については、知りたいということが1個も思い付かないというのに。

琴莉についてであれば、自分でも信じられないくらい、知りたいことが湧き出てくる。

その事実が、いかに琴莉という存在が俺にとっては特別であるかを、思い知らせてくる。



「じゃあ、また帰る前に連絡しますね」



そう言って、母親は通話を切った。

そのタイミングで



「母さん、今のって……」

「ああ、佐川さんよ」



違う。そこじゃない。



「その……何、話してたんだ?」

「あなたが人の電話を気にするなんて、めずらしいわね」


そこはわかってる。

自分でも痛いほど。

でも、母親が例え不審がっても、理由に気づいてニヤつくかもしれないと分かっていたとしても、俺は琴莉の今が知りたいのだ。

それしか、琴莉との繋がりがないことが寂しい。

そんな状態でも琴莉に執着する自分はどうかしているとも思う。

けれども、やっぱりそれが俺なのだ。


「高校の事を聞いてたのよ」

「高校?」

「あなた、まさか帰国してから高校通わないとか馬鹿なこと言うんじゃないでしょうね」

「んなわけあるかよ」


すっかりと忘れてはいたけれど。


「それで、琴莉ちゃんもちょうど受験でしょう。あなたの1個下だから。だから、どこを受けるのか聞いてみたのよ。ここだと手に入らない情報もあるしね」

「そうなんだ……」


母親が気にしている情報と、俺が気にしているものはきっと違う。

だけど、それは必然的に俺が欲しい情報に結びつく。

そこには感謝した。とても。



「それで、何だって?」

「……佐川さんの家、ちょっと大変そうだったわ」

「え?」


その後、母親は俺に仕入れたばかりの衝撃的な事実を共有してくれた。



「琴莉ちゃん、中学の時にほとんど学校に通えなかったから、内申が危ないんですって」