何でだよ。

そんな顔で、何で俺を見るんだよ……!


「お前が逃げるからだろ!」


頼むよ!

逃げるなよ!!


「意味わかんないよ!!!」


何でだよ。

わかるだろ?

わかってくれよ!

会いたかったんだよ。

話したかったんだよ。

手を繋ぎたいんだよ。


「琴莉……!!」


俺が、もう一歩琴莉に近づこうと手を伸ばした時だった。


「ナオくんなんて大嫌い!!来ないで!!!」


は……?

琴莉?

今、何て……?


「こと……り……?」


嘘だよな。

俺のこと、大嫌いだなんて。

嘘だろ?

嘘だって、言ってくれよ……!!


「おい、琴莉、ちょっと待っ……」


琴莉は、俺に最後まで言葉をもう言わせてくれなかった。

近づくな、と目で訴えてきた。

それから、また琴莉は走り出した。


「待てよ……なあ……琴莉……!!」


走らなければ。

捕まえなければ。

俺は、焦った。

でも、どうしたらいいかわからない。

琴莉に大嫌いと言われてしまったから。




くるり、と琴莉が振り返った。

俺の方を見てくれた。

やっぱり、琴莉が大嫌いだなんて言ったのは嘘だったんだろう。


「琴莉……俺……」


また一歩、俺が近づこうとした時だった。

琴莉の向こう側に、アイツがいた。



「琴莉ちゃんは、先輩と離れた方が楽しいって言ってますよ」


と、俺に言いやがった、琴莉に付き纏っている男。

まだ、琴莉ちゃんに付き纏っているんですか?

そう言いたげな視線にムカついた俺は、アイツに睨み返した。

けれど、すぐにそれが失敗だったことに気づく。

琴莉の表情が、また変わった。

怯えていた。


しまった……!


「待て!琴莉!!!」


と俺が叫んだ頃には遅く、琴莉はあっという間に俺の前から姿を消していた。


……俺の声は、届かなかった。