「琴莉!!」

俺が2階から話しかける。

昔のように。

すると、くるりと俺の方に振り向いてくれる。

遠くからでも分かるほど、目を大きくまん丸にして。

その顔は、最近ネットで見たシマエナガに似ている。


「よお!熱下がったのか?」


これは昨日、琴莉の母親とうちの母親が家の前で話しているのを聞いて手に入れた情報。

偶然とは言え、知ることができてほんの少しだがホッとした。

俺の部屋が見えるカーテンを閉め切っていたのは、もしかすると俺と関わりたくない意思表示じゃないかと思っていたから。


琴莉は、俺の問いかけに何も答えない。

硬直したかのように、ぴくりとも動かない。

どうして、そんな反応をするのかは分からないが、これは好機だと思った。

ゆっくり、琴莉と話すための。

何から話せばいいのかは、まだ決めてないが、琴莉を目の前にすれば、話したい事はいっぱい溢れてくるから、問題はないだろうと思った。


「ちょっと待ってろ、いいな」


そう言ってから、俺は玄関に向かった。

ほんの数十秒くらいだ。

それくらいなら、目を離したとしても琴莉はそこにいてくれるだろうと、謎の自信があった。


でも、玄関の扉を開けて悟った。

ほんの数秒でも、ちゃんと惜しめばよかった。

骨折を怖がらずに、窓から飛び降りてしまえばよかった。


たった数十秒の間に、琴莉は玄関の前から消えてしまっていたから。