理由は、父親の転勤。

元々、父親の辞令は3ヶ月も前には出ていたらしい。

ただ、直前まで俺が行くことを知らされていなかったのは、ギリギリまでは俺と母親は日本に残るという計画だったから……らしい。

それが、出発直前で急に雲行きが変わったのは、俺に関する噂が原因だと、母親から聞かされた。

たくさんの女と節操なく遊んでいる、遊び人。

そんな噂がこれ以上広がれば、父親の出世に響くかもしれない。

だから、いっそ噂ごと断ち切るために俺を連れてアメリカへ行くしかないのだと、父親が無理矢理決めたとのことだった。

それがどんな理由で作られた噂だったとしても、噂の理由など、誰も見てくれない。

そう、母親が最後に言ったのは、薄々俺の行動の理由に気付いていたからなのだろうか……。




俺がアメリカに行く前に、琴莉と話せるチャンスはこうしている間に、少しずつ無くなっていく。

琴莉は、どういう理由か知らないが、家から一歩も出なくなった。

一方で俺はというと……急に俺が渡米することが広まってから、俺のところにはたくさんの女子たちが訪れて、相手をするのが大変だった。

何度投げやりにしてやりたいと思ったかは分からない。

だが、この女子たちの中には、琴莉の存在を知っているであろうやつも数名ほどいた。

幾度となく


「最近幼馴染ちゃんと話してないね?」

「もう、仲が悪くなっちゃったのかな」


としつこく聞いてくるから。

お前らのせいだろう、と何度も怒鳴りそうになるのを堪えながら俺は


「あいつより、お前らといる方が楽しいぜ」


と、心にもないセリフを吐きながら、牽制し続けた。

こうまでして、琴莉の事を守り続けたのだから、それは最後の最後まで続けなければ意味がない。

俺がいない間に、琴莉にこいつらが何かしでかさないように。



そんな風に、ただでさえ少ない時間をそんなことで使ってしまった結果、渡米まであと2日になった。

そこでようやく、俺は琴莉と話をするチャンスを手に入れることができた。

俺の邪魔をする女子たちは、いない。



俺が数年、待ち望んだ時だった。