それから、俺と琴莉がちゃんと会話ができるようになるまで、数年必要だった。

最初は、一緒に学校を行くために待ち合わせもしたが、家に迎えに行っても琴莉はすでに出ていってしまったから。

俺は、琴莉とずっと一緒にいた。

誰よりも長く。

その変化に違和感を持たないほど、俺は鈍くはない。

だから、ある時俺はわざと琴莉が家を出た後、こっそり後をつけた。


おかげで、分かったことがいくつかあった。

琴莉は、俺と登校する時より、1時間も早く家を出ていたこと。

学校の門が開くまで、近くの公園のブランコに座って待っていたこと。

それから……。


「おはよう、佐川さん」
「今日も、1人?」

俺のクラスの女子たちが、琴莉によってたかって話しかけていた。

琴莉の表情は見えなかった。

女子たちの体が、琴莉を俺から隠していたから。




「どういうことだよ」





俺が、比較的話しやすいと思っていた、あの女子を体育館裏に連れていき、俺は問い詰めた。


「なんのこと?」

「とぼけんな。琴莉のことだ」

「琴莉?…………ああ。あの、うざいチビのこと?」

「なんだと?」

「だって、そうでしょ?ナオくんはみんなでシェアするって決めてるのに」

「は?」


何を、言っているんだ?

こいつは。


「あの子ばかり、ナオくんを独り占めなんて、許されるわけないじゃない。だから、成敗してあげたんじゃない」


理解も納得もできないけれど、ようやく気づいた。

俺が、琴莉だけを特別扱いしていた事が気に入らなかったこいつらが、琴莉を追い詰めていたということを。

琴莉が俺から離れるように仕向けたということを。