いつだろう。

琴莉以外の女子が俺の家の前に来るようになったのは。

よく覚えていない。

本当に、気がついたらそうなっていた。

友人たちからは、モテて羨ましいと言われたけど、俺にとってはのんきに笑ってなんかいられなかった。

女子たちの代わり、琴莉が俺に反応してくれなくなったから。

前までは、ちょっと呼ぶとすぐに


「ナオくん」


と笑って振り返ってくれたのに。

琴莉は、俺が呼んでも返事をしてくれなくなった。

それどころか、手を伸ばそうとすると、するりと逃げてしまうようになった。

あまりにもその変化が急で気になったから、まず俺は琴莉の母親に聞いてみた。

知らないと言われた。

次に俺は、クラスの女子の一人に聞いてみようと思った。

そいつは話がしやすいサバサバした女子で、男友達と同じくらい話しやすかったから。

放課後。

話しかけようとしたら、そいつが教室を出て行った。

胸騒ぎがして、おれはすぐに追いかけた。

そいつが向かったのは、琴莉がいる教室。

廊下から大声で


「佐川さーん!」


と、琴莉の苗字を満面の笑みで呼びかけていた。


いつの間に仲が良くなったんだ?


俺がそう、話しかけようとした時、そいつがもう1回琴莉に向かってこう言った。



「約束、守ってくれてありがとねー」


……約束?

そいつと琴莉が、いつどこでどんな約束をしたのだろうか?


俺は、そいつが琴莉の教室の前から、去って行くのを気付かれないように見送りながら、琴莉の様子を見たくて教室を覗き込んだ。


琴莉は俯いていて、表情は見えなかった。

その代わりに俺が知らない、琴莉の友人であろうやつらが、琴莉に触れていた。

その中には、男もいた。

琴莉をいじめていた男ではなかったが、その光景はきっとずっと忘れない。





それからすぐ。

琴莉にそいつらが何をしたのかを知ったのは。

たまたま、この時に俺の姿を見たというその男が、わざわざ俺の教室まで俺を訪ねてきたから。



それから言われた。




「琴莉ちゃんは、松井先輩のせいで上級生からいじめられたんだ。もう近寄らないで欲しい」


と。