「あ……の……」


琴莉が、とても聞きづらそうに口をモゴモゴさせてる。

状況が状況なだけに、これを可愛いと言いそうになる気持ちは、頑張って抑えた。


「ナオ…………くん…………なんだよね…………?」


改めて、もう1度確認された。


「そうだよ。波音だよ」

「…………あの…………家の前で女の子いっぱいいた…………ナオくんだよね…………?」

「…………ええと…………」


これは、できれば肯定はしたくない。

でも琴莉はどうも、その部分で俺という人間を認知しているらしかった。

仕方がないので


「そうだ……と思う」


と言うしかなかった。

思う、をつけたのは自分なりのちょっとした反抗だった。



「だって、ナオくん……言ってたから……」

「え?」

「俺が抱いてやるって、他の女の子に…………」

「ええと…………」


そう発言した理由が、あまりにもくだらない理由だから、できれば墓場まで持って行きたかった。

でも、この誤解を解消しないと、琴莉と俺はこれ以上近づけない気がする。


「…………俺の方…………見て欲しかったから…………」

「え?」


何を言っているのだろう、と言いたげな顔で琴莉は俺を見つめている。


「だから…………」


俺は、照れ隠しもあり、琴莉を再び胸に閉じ込めるように抱きしめながらこう白状した。



「お前に、振り向いてもらえるんじゃないかって!気にしてくれるんじゃないかって!だからあんなこと言いました!ごめんなさい!!」



どこの小学生の謝罪言葉だよ……と、自分で自分が発した言葉を聞きながら絶望した。