「琴莉」


俺は、琴莉の手を取った。

それから、思いっきり握りしめた。

琴莉の手は、とても冷たくて震えていた。


「忘れたっていいんだ」

「え?」

「むしろ、過去のことは忘れてくれないか?」

「何、言ってるの?」

「だってそうだろう」


過去の俺に、覚えておいてくれる程の価値なんかない。

嫌われるのが怖くて、近づけなかった俺なんか。

琴莉を守るはずが、傷つけていた俺なんか。

それに……。


「なあ、琴莉。お前は、俺が離れると思ってるから、そう言うんだよな?」


琴莉は、何も言わない。

俺たちの手に落ちる琴莉の涙の量は、どんどん溢れていた。


「琴莉。俺さ、本当にお前が好きなんだよ。大好きなんだよ」


琴莉は、それを言うと首を横に振った。



「頼む。今度は、俺の話を最後まで聞いてくれ。次はお前の話もちゃんと聞くから」


俺は祈りを込めて、琴莉の手をさらに強く握る。

琴莉は、俺の目を泣き腫らした目で見つめ返してくれた。

そんな場合じゃないと言うのに、俺は琴莉の目と唇に欲を抱いた。


「まず1個訂正させてくれ」

「え?」

「俺は、誰も抱いてない。正真正銘の童貞だ」

「…………え?」


琴莉は、鳩が豆鉄砲喰らったような顔を見せた。