彼は、今何と言ったのか。


「琴莉の耳が聞こえづらくなったことは聞いた」


彼は、言葉を続ける。



「お前が、それで苦しんでいるってことも、教えてもらった」



どんどん、私が好きな彼の声が消えてしまう。

上書きされてしまう。

思い出が、流されてしまう。


「もし、音が聞こえづらいと言うのなら、俺がお前を助けたい。俺の耳を、お前の好きに使っていい、だから」


違う。

違う!

違う違う!!


「そうじゃない」


私もまた、声を出した。

彼の新たな声を、堰き止めるために。


「私が欲しいのは、それじゃない」


新しい耳なんかじゃない。

新しいものなんかじゃない。

新しいものなんか、何にもいらないのに。



「ただ、宝物を大事にしたいだけなのに」

「え?」

「ナオくんが、私を琴莉って呼ぶ声を、忘れたくないだけなのに」


私が苦しいのは、私なんかがナオくんの側にいたから。

私なんかが、ナオくんに恋をしたから。

不相応すぎる恋の罰として神様はきっと、私からあなたの声を奪ったのだろう。

そうとしか考えられない。


「これ以上、私から何も奪わないで、お願い。お願いします。お願い……!!」



私は私の中にいる、ナオくんの声だけで十分だったのに。