「どうしてだ?」


彼は、言った。


「どうしてなんだ琴莉」


どうして?


「私が、知りたい」

「琴莉?」

「どうしてこんなこと考えちゃうのかも、どうして私がこんな思いしなきゃいけないのかも、私にはわからない!!」


そう叫んだ時、また彼は私を抱きしめてくれた。

耳元から聞こえる彼の声は、泣いていた。

でも、その声は……。


「私は、あなたの声が好きだった」

「……琴莉?」

「あなたの声を聞くのが、喜びだった」


あなたが、大好きでした。

本当に。

言葉を思い浮かべるだけで、胸が締め付けられるくらい。

私はずっとあなたに恋をしていた。

けれど。


「もう私には、あなたの声が美しく聞こえない。あなたの側にいればいるほど、その事実が悲しくて仕方がない」


私はあなたの声が聞こえなくても、当たり前の距離まで離れたい。

でも、きっと生きていれば、あなたの声を求めてしまう。

あなたを探してしまう。

そして彷徨って、失ったと嘆く。

だったらいっそ、そんな私は……。


「最初から……私からいなくなってしまった方が、もうこれ以上ぐちゃぐちゃにされないから」



私の心を、守れると思ったから。



「なのに、ねえ……どうして?」



あなたは、私の前から消えてはくれないのですか?

その言葉をいうのをためらった時だった。

彼が、耳元でこう囁いた。



「俺が、お前の耳になるから」