幻聴なのだろうか?

私は、どう返せば良いのだろうか?

そもそも、この「好き」という言葉に私は何か反応する資格があるのだろうか。

受け取る資格すらないのではないだろうか。

だって、私は……。


「琴莉?どうして……黙ってるの?」

「……もしあなたが本当にナオくんだとして」

「……俺のこと、信じられない?」

「そうじゃなくて、そうじゃないの……」


何を言っているのか、私は。

会話にならない。

会話ってどうすれば成立するんだっけ。

どうしても、言葉がうまく出てこない。

私の頭は、ただでさえごちゃごちゃしてる。

事故の後からずっと、脳みそに糸がこんがらがってしまったかのように、私が深く考えようとすると邪魔をする。

ゴミのように、へばりついてくる。

だから、私の頭も、耳も、何もかもがおかしくなっていく。

闇へ、落ちそうになる。

吸い込まれそうになる。

それは、今日も。

そしてきっと、明日も明後日も。その先も。


「怖い」

「琴莉?」

「私、怖い」

「何が?」

「みんなが変わっていく。どんどん私が知らない姿になっていく」

「……何が変わった?」

「私を見る目が違う。みんな私を悲しい目で見る」

「……それから?」

「私がいたはずの場所が消えた。前は私がいないと困るって言ったのに、もう今は私がいなくても困らなくなってる」

「……他は?」

「私は運が良かった。助かって良かった。みんなそういうの。でもね、だけどだけど……」


声。

視線。

投げかけられる言葉達。

全てがもう。

まるで別物。

何を言っているんだろうと、きっと困っているだろう。

私だって、困ってる。

苦しい。

吐きたい。

本当は、こんなことを言うべきじゃないってわかっていたのに。

もし本当にこの人がナオくんだとしたら。

私が言わなきゃいけなかったのは、きっと別の言葉。

それは、別れの言葉。

そしてそれはまた、解放の言葉にもなる……はずだったと、いうのに。


「ごめんなさい」

「琴莉?」

「私、ダメだもう」


この世界でこれ以上生きていくには、今の私には闇が多すぎる。

「いっそ、死にたかった」

死なせて欲しかった。

それは、私の偽りない今の本心。

誰の目も、気持ちも、もう考えることができないでいた。