私の手を掴んだその人は、私が知らないはずの人だった。

でも、その手の温もりだけは懐かしいと思った。


「琴莉……」

「誰?」


私は聞いた。

知りたいと思ったから。

この人の正体を。


「波音だよ」

「嘘」


私は否定した。

違うと思ったから。


「嘘じゃない」

「嘘つかないで」


この人は、逃れようとする私の手をさらに強く握ってくる。


「痛い!」

「ご、ごめん」


少しだけ、手の力が緩んだ。

私は、手を払おうとした。

でも、できなかった。

したくなかった。

この手に、離してもらいたくなかった。


「琴莉」


知らないはずの男の人が、私にもう1度声をかけてくる。

でも、私は気づいた。

この話し方は、彼だと言うことに。




「ナオくん……なの?」


私がそう言った時。

彼は私をそっと抱き寄せた。