「じ、自殺未遂ですって!?どういうことなのあなた!!」

「これから、その説明を聞きに病院に行くところだ」


そう言うと、琴莉の父親が俺の方を見た。


「波音くん」

「……はい」


今日のところは帰ってくれ。

そう言われるのかと思って身構えた。

でも、違った。



「君も来なさい」

「え!?」

「あなた!どう言うこと!?」

「話は車で移動しながらにする。二人とも早く乗れ」


琴莉の父親は、そのまま車に俺たちを乗せた。

助手席に琴莉の母親が。

後部座席に俺がいる。


「少し、飛ばすから」


そう言いながらも、丁寧に運転をする琴莉の父親の気質に、俺は琴莉を感じた。


「あなた、説明してちょうだい!琴莉に何があったの!?」


琴莉の母親は、まるで俺なんか見えていないかのように振る舞う。


「琴莉が、屋上から飛び降りようとしたらしい」

「な、なんですって……!」

「でも、琴莉本人に、その自覚はないそうだ」

「どういう意味なの!?それ」

「お前も病院から聞いただろう。琴莉の夢遊病のことを。そして……」


ミラー越しに俺は、琴莉の父親と目が合った。


「波音君。君もその事は知っているね」


俺は、頷く。

琴莉の父親の表情は変わらないまま、琴莉の父親はハンドルを切った。



「今日のも、どうもそれだったらしい」

「それなら自殺未遂とはいえないじゃない!本人の意思じゃないってことよね」

「そうだったらいいが、そうとも言えないらしい」

「紛らわしい言い方しないで!はっきり言いなさいよ!」


琴莉の父親がため息をつきながら、ハンドルを切る。

病院の建物が視界に入った。


「琴莉のスマホに、データがあったそうだ」

「スマホに?」

「琴莉は、スマホだけは一応触れるからな。そこにこう書いてあったそうだよ」


琴莉の父親はまた俺を見つめてくる。

ミラー越しに。

絶対に目を逸らすな、と、その目が俺に圧をかける。



「ナオくんの声を忘れたくない。どうしたら消えないでいてくれるの?」


それを聞いた瞬間、俺の目から既に溜まっていた涙が落ちた。


車は、病院の駐車場に到着した。