「話……ですって?」

「はい」


琴莉の母親は、俺を睨みつけたまま。


「もしかして……お金のことかしら」

「それも、あります」


受け取ってもらえなかった、俺自身が働いて貯めた琴莉のためのお金。


「あなたのお母さんから聞いてないの?お金はいらないと」

「聞いています」

「じゃあ、もう話は無駄だってことも、分かるわよね?」


そう言うと、琴莉の母親は扉を閉めようとした。


「待ってください!」


俺は、1度開いた扉が閉じないよう、懇願した。

これで閉じられてしまえば、今度こそ琴莉と俺の間の扉も、閉ざされたままになる気がしたから。


「お願いします!話を聞いてください!!」

「どうして!?もううちの子と関わらないでって、あれほど言ったのに……!あなたのせいで琴莉は酷い目にあったのよ!!」

「っ……!!」


言われると、分かってた。

何度も覚悟していた。

それでも、何度も繰り返した頭の中のシミュレーションより、たった1回の言葉が酷く重たい。

琴莉の母親は、琴莉によく似ている。

だからこそ余計、胸が痛い。

足が震えそう。

逃げ出したい欲にすら、襲われそう。

それでも。

だからこそ。

ここで逃げるわけにはいかないと思った。

琴莉の母親の目は、琴莉に似ている。

俺は今、琴莉自身にも試されている。

そんな気がしたから。


「何度も謝っても謝りきれません!だからこそ、俺は一生琴莉に償い続けたいんです!」

「償うなんて結構よ!あなたの顔を見るだけで、あの子は事故のことも思い出してしまうのよ!?」


琴莉の母親は、俺の顔を指差しながらこう言い放つ。


「あの子に償いたいというのなら、今すぐあなたが消えて。それで十分だから」

「それだけはできません」

「なっ……何言って……」

「申し訳ないですが、それだけはしたくないんです。それ以外のことなら、なんでもします」


そう言ってから、俺は深く頭を下げた。


「お願いします!俺に償うチャンスをください!」

「ちょっと……こんなところで……やめてちょうだい……!」

「お願いします!お願いします!!」

「やめてって言ってるでしょ!!」

「やめないか!!」


急に、低い男性の声がした。

琴莉の父親だった。


「やめないか2人とも」

「でも、あなた……」

「今は、それどころじゃないんだ」

「え?」


琴莉の父親は、ひどくあせっているようだった。


「今、琴莉の病院から電話があったよ」

「なんで……!?」


琴莉の母親の顔色が、一気に青くなった。



「琴莉が、自殺未遂をしたそうだよ」