俺は走った。

琴莉が事故の知らせを聞いた時と同じように。

でも、あの日と今は全く違う心持ち。

あの時は、ただただ、琴莉のことが心配だった。

その先のこと何か考えることすらしなかった。

ただ、琴莉に会いたい。

ただ、それだけ。

その後、俺が何をできるかも。

俺に何を求められるかも考えずに。

真っ直ぐ、自分の思う通りにさえ走れば、必ずゴールに届くと、信じて。

でも、そうじゃない。

ゴールは、走れば走るほど逃げていく。

俺の手から離れていく。

それは全部、俺に受け入れる力も、覚悟もなかったから。

だから俺は、走る。

例えそれが真っ直ぐじゃなかったとしても。

困難な坂道や泥道だったとしても。

そこを走ることでゴールが最終的に俺を待っていてくれるなら。


「着いた……」


この近くに来るのは、久しぶりだった。

でも、ちっとも久々な感じはしない。

だって、俺は生まれた時からほとんど、この景色を見続けていたから。

そして……その景色の中のほとんどに、琴莉はちゃんといた。

ピンポーンと、チャイムが心臓を押しつぶす。

俺は、汗と息を必死で整えながら、扉が開くのを待つ。

待っている時間は、ひどく長い。

がちゃり。

扉が開いた。

俺は、溜まっていた唾を飲み込んだ。

その味はとても苦かった。

まるで、これから先の展開を予感させているかのように。


「今更、何の用?」

「すみません、俺の話聞いてくれませんか!?」


琴莉の母親が、俺を蔑んだ目で見下ろした。