「ふーん……」


ケビンは、いつの間にかポテトチップスの袋を開けて、ボリボリと数枚一気に口に放り込んだ。


「あ……俺……?」


そのポテチがケビンの口の中で破壊されていく音で、俺はふと我に返った。

今、俺は何を言った?


「どうした?ナオ。呆けた顔して」

「ケビン、俺今……何を……」

「バードちゃんが他の男と結婚したって想像した瞬間に、嫌って言ったんだぞ。覚えてないのか……?」


ケビンは、呆れたように笑いながら、またポテチを口に入れた。


「バードちゃんに、お前のせいだって責められ続ける人生を想像させた時は、ぐだぐだ悩んでたのに、他の男にとられる人生を想像させたら一発で答えが出るんだもんな。答え、一目瞭然じゃん」

「でも、俺は……」


他の男に取られるなんて、考えただけでも胸がかきむしられそうな思いに支配される。

他の男が、琴莉の名前を呼ぶ声も。

琴莉に触れる他の男の手も。

琴莉にキスをする他の男の唇も。

想像した瞬間、俺は全部壊してやりたいと思ってしまった。


「なあ、ナオ。もう考えるのはやめろ」


そういうと、ケビンは俺の口の中にもポテトチップスを4枚一気に突っ込んできた。

塩味が染みる。


「いっぱい泣いたから、塩うまいだろ」


大きなお世話だ、と思いながらポテチを咀嚼した。

でも、体が少しずつ目覚めていくのも、わかった。


「なあ、ナオ。それ食い終わったらバードちゃんのとこ行け。そして、伝えろ。お前の気持ちを全部」


俺の口の中には、まだポテチは残っている。

飲み込もうとして、少しつかえた。


「お前に必要なのは、全部を受け入れる覚悟と……ただひたすら走ること。バードちゃんに向かって。意味は、分かるな?」

俺は、声が出せない分頷いた、力強く。


「あと1個だけ。……バードちゃんの選択は、お前に拒否する権利はないぞ。バードちゃんの全てを受け入れろ。いいな、ナオ」


その言葉を言うと同時に、ケビンは空いてないミネラルウォーターを俺に放り投げた。

俺は急いで蓋を開けて、一気にポテチを流し込んだ。