「俺が、どうしたいか?」

「そう。まず、ここで変えられない事実から整理するぞ」


アメリカの教育を受けたケビンは、論理的に事実を整理するのが得意だった。


「まず、はっきり言うぞ」


こう言う時のケビンが容赦ないことも、俺はアメリカ時代の経験を通じて知っている。

ケビンだけではないが、お世辞や忖度という文化はアメリカにはない。

まあケビンの場合は、例えそんな文化があったとしても「意味がないことをする価値はない」と一蹴していただろうが。

そういう男がケビンであることも、俺は知っていた。

だからこそ、誰にも言えなかった苦しみも含めて全部ケビンには言うことができた。

……何故、もっと早く頼らなかったのだろう、と、後悔した。


「お前、人のこと見なさすぎ、関心なさすぎ」

「…………そんなにか?」

「ナースにも言われたんだろ?友人でもない人間がわざわざ忠告するって、よっぽどだと俺は思うがな」


俺が無言になっているところに、さらにケビンは言葉を継ぎ足してくる。


「まず、お前さ……自分が人からどう見られてるのか、マジで考えたことあるのかよ」

「え?」

「まあお前の場合は、ジャパニーズの中でも整った顔してるから意識しなくても人から嫌われる……なんてこと、きっとなかったんだろうな」


その言葉の裏側の意味に、俺は瞬時に気づいた。


「悪い……そんなつもりじゃ……」

「そんなつもり?肌が黒いって理由だけで、きちんとした身なりしなくて警察に連れて行かれた親父のことを言ってるのか?」

「いや……それは……」


ケビンの声が、少しだけ怒りが滲んだ。

英語だと、特に低くなるから余計に怖くなる。


「まあでもナオ。そういうことだ」

「え」

「俺らは、周りを気にして生きないといけない。もちろん、意味がない気にする、じゃないぞ。生きていくために、目的を達成するためにどう振る舞うべきだったのかを、真剣に俺たちは考えてるんだ。そうしないと……分かるよな?お前は、見たんだから」


見たんだから、の声の圧に、それ以上この件は言ってくれるなよ、というケビンの意志が感じられた。


「お前は、どうだ?ちゃんと、自分が客観的にどう見えてるのか分かってたのか?そのせいで、誰かが傷つくかもしれないって、1度でも考えたことあるのか?」


ケビンの話は、俺が琴莉にしたことへの本質をついていた。