「お前、随分とセンシティブな話題をぶっ込んできたな」

「ダメだったか?」

「普通は、今まで何してたーとか近況報告くらいはするだろ」


ケビンは、人付き合いが本当に上手だ。

俺が知っているケビンは、人種関わらず誰とでも仲良く話している印象だった。

でも、心無い差別主義社も少なからずいて、彼らの標的にもよくケビンはなっていた。


「アメリカ時代は興味無さそうだったのに」

「…………興味が無かったわけじゃない」


どちらかと言うと、関わるのが怖かった……の方が近い。

言葉も通じない、文化もわからない。

琴莉がいない毎日に慣れるにも、当時精一杯だった。


「ああ言うのは、知らないでいられるのは幸せだってことで」


ケビンはそう言いながら、ペットボトルの緑茶を一気に半分飲み干した。


「俺は、黒人としてアメリカに生まれた。その事実は変えられない。かけられないもんに、ジタバタしたって、しょうがないんだよ」


事実は変えられない。

その言葉を、俺はもう少し深く切り込んでみたかった。


「なあケビン」

「何だ」


ケビンは、慣れない手つきでおにぎりの袋を開けていた。

海苔はビリビリに破れていて、海苔のかけらがケビンの身体中についていた。


「……お前は、事実を恨んだことはないか?憎んだことはないか?」

「どう言う意味だよ」


ケビンの声色が少し変わった。

まるで、次の俺の発言を警戒するような……。


「もう、決して変えられない事実のせいで、一生自分の望みが叶わないかもしれないと……思ったことはないのか?」

「ないね」



即答だった。