「おー!!これがジャパニーズの家か!」

「悪いな、狭くて」

「いいじゃないか、秘密基地みたいで。俺は気に入った」

「……そーかよ」

「それで、ここがリビングだろ?寝室はどこだ?」

「ここだよ」

「…………What?」


目を丸くして、もう一度ケビンは俺の部屋を見渡した。

そして言った。


「お前、その長すぎる足ちゃんとしまえるのか」

「……狭いなら狭いって言えよ」

「ははは、ジョークだよ。いい加減慣れろ」


そう言うと、ケビンは床に座り込み、さっさと袋から飲み物とスナック菓子、おにぎりをどんどん床に広げていく。


「この家、何もないのか」

「…………文句があるなら、今からでもホテル行け」


俺の部屋は、布団と必要最低限の家電以外は何もない。

当然だ。

この家に帰ってくるのなんて、仕事が終わって寝るためだけ。

光熱費を無駄に使うのも勿体無いのだから。


「文句なんてねえよ。ただ、お前らしくない部屋だと思っただけだ」

「俺らしい?」

「お前、アメリカにいた時、インテリア凝った部屋に住んでただろ。自分でもオーナメントとか色々作ってたじゃないか」

「それは……」



暇だったから。

暇すぎて、琴莉のことばかり考えそうだったから。

それだけだった。



「あー、バードちゃん絡みか」


ケビンはそう言うと、買ったばかりの緑茶のペットボトルを飲んだ。


「甘くないんだな、こっちのグリーンティー」


ケラケラ笑いながら、お前も飲めよ、と手渡してくる。

俺の金で買ったのに。

でもそんなことが気にならないくらい、ケビンの存在が今はありがたい。


「なあ、ケビン」

「何」

「お前はさ……どうやって乗り越えたんだ?」

「乗り越えた?何を」



本当はずっと聞かないようにしていた。

けれど、ケビンの強さはそこからきているのだと思った。

突然誰かが自分に牙を剥く怖さも、無常さも、ケビンは全部知っていた。

だから、聞いた。

アメリカから離れた日本だから聞けた、と言うのもあるかもしれないが。

それくらい、この話題はアメリカではセンシティブだ。



「黒人差別を、だよ」