琴莉は、交通事故の時頭を強く打ってしまっていた。

それ以外……手足や臓器は、不幸中の幸いなのか、ほとんど何もなかったらしい。

だから、失われた筋肉を取り戻すリハビリさえすれば、身体的には日常生活に戻れるだろうとのこと。

でも、頭を酷く打った。

これが、琴莉からいろいろなものを奪っている可能性があるとのことだった。

繰り返される頭痛やめまい。

記憶力や判断力の鈍化。

性格の変化。

自発性の低下。

今、すでに全てに関して兆候があるらしい。

そのために精神安定剤も飲ませている。

その時期かららしい。

あんな風に琴莉が夜、ふらりと歩き回るようになったのは。

夢遊病、というものだと言うことを教えてもらった。


さらに……。


「親御さんに聞いたんだけど、琴莉ちゃんって放送部に入っていたんでしょう?」

「……はい」

「そしたら、アナウンサー志望とかだったのかしら」

「…………それは……」


知らない。

音楽を選んでることしか。


「だとしたら、やっぱり可哀想ね」

「どういうことですか?」




この時の、看護師さんの答えが、俺の疑問を解消させてくれた。

何故、琴莉が「ナオくんの声じゃない」と言ったのか。





「琴莉ちゃん、完全に聞こえてないわけじゃないんだけど、おそらく耳に障害が残ったみたい。音がね、違って聞こえるってずっと泣いているの」