「声……?」

「あなたの声は、私が大好きなナオくんの声じゃない」


そう言うと、琴莉は俺の手を振り払って外に出て行こうとする。


「待て!待てよ琴莉!」


俺が必死に琴莉に呼びかけた時だった。


「佐川さん!!」


看護師さんが二人、急いで駆けつけてきた。


「佐川さん探しましたよ」

「さあ、病室に帰りましょう」


看護師さんの内の一人は、慣れたように琴莉の体を捕まえ、あっという間に病院の中へ琴莉を連れ戻してしまった。


残されたのは、俺ともう一人の看護師。

……比較的よく、俺に話しかけてくれる人。

琴莉が目覚めた時、教えてくれたのもこの人だった。



「ありがとうございました」

「え?」

「琴莉さんのこと、引き留めてくれて」


そう言いながら、看護師さんは琴莉の血の跡の片付けを始めた。


「お、俺も手伝います」

「ダメ。素人は触らないで」


厳しく言われたので、俺は棒立ちで看護師さんのテキパキとした動きを見ていた。

しばらく無言の時間が続いたが、先に沈黙を破ったのは看護師の方だった。


「これから話すことですが、私が言ったって……言わないでくださいね」



そんな出だしから始まったのは、目の前で起きた出来事についてだった。