「ナオくんって……」


琴莉は、かつて俺のことをナオくんって呼んでいた。


「なあ……琴莉……ナオくんって、俺のことだよな……?」

「…………」


俺の顔を見ているのに。

俺の声を聞いているはずなのに。

返事がない。

ただ、きょとんとした表情をしているだけ。


「琴莉……?」


こんなことをしている間にも、どんどん琴莉の体からは血が落ちている。

すでにもう、琴莉の足元には血の池ができていた。

そこにまた一雫、二雫と、落ちていく。

じわりと、池が広がっている。

それに合わせてだろうか。

琴莉の顔がますます白くなっている気がした。


「琴莉、病室帰ろう。な?」


俺は声をかける。

本当は腕を掴みたかった。

でも、触れてしまうと一気に血が流れ出て、今度こそ本当に琴莉が死んでしまうのではないかと思った。


だから必死で問いかけた。


「俺は、ナオだよ。松井波音だよ!わかるよな?琴莉!」


今にも外に出て行こうとする琴莉に、必死で問いかけた。



どうして俺だって分かってくれないんだ……。



そんな苦しさも募ってきたけれど。

何度も何度も繰り返し、俺は琴莉に訴える。


「なあ、お前俺を探してるのか?」


俺はここにいるよ。


「お願いだ、答えてくれよ!俺はどうしたらいいんだ!」


つい、声を荒げてしまった。

その時、琴莉がまた俺の方を見た。

そして、言った。



「あなたの声はナオくんの声じゃない」