「こ……琴莉?」


俺を見つめる琴莉の目は虚ろ。

ガラス玉のように綺麗な琴莉の目に、俺は映っているはずなのに、何も見ていないように感じた。


「俺だよ、琴莉」


波音だよ。

小さい頃からずっと一緒にいた、お前の幼馴染で……。

お前のことを、誰よりも好きな男だよ。

そう心の中で呟きながら、琴莉の手を握りしめる。

こうやって、琴莉の目をちゃんと見ながら琴莉の手を握れるのも、何年ぶりだろう。

握り返す時に、キュって琴莉の指がほんの少し曲がるのが可愛いと思っていた。


「琴莉……琴莉……」


でも、何度も俺が話しかけても、琴莉は俺の手を握り返してくれない。

ただじっと、俺を顔を目に映しているだけ。

その時、前髪がハラリと琴莉の目にかかった。

目に入ったら痛そうだな。

そう思ったから、琴莉の前髪をはらってやろうと、もう片方の俺の手を伸ばした時だった。



「何してるの!琴莉から離れなさい!!!」



背後から、知っている声が聞こえた。

振り返らなくても分かった。

俺が琴莉に近づくことを、誰よりも拒絶している琴莉の母親が、俺を睨みつけているであろうことは。