琴莉の目覚めは、本当に突然だった。

何か前触れがあったわけではない。

けれど、あの日。

看護師さんに声をかけられて病室に駆け込んだ日。

半年以上ずっと見られなかった琴莉の目が、しっかりと開いていた日を、俺はこれから一生忘れることはないかもしれない。

「琴莉……おはよう……」

俺がおそるおそる声をかけた時、琴莉の手が微かに動いた気がする。

俺は、その手を握った。

琴莉が、また深い眠りの世界に連れていかれないように、繋ぎ止めておきたかったから。

「琴莉!聞こえるか!?琴莉!」

俺は必死に声をかけた。

声を出すのは難しいかもしれない。

体を動かすのも、厳しいだろう。

俺は琴莉がこんな状態になってから、少しはネットや本を読んだから、なんとなくはわかっていた。

琴莉が目覚めた時に、今度こそちゃんと俺が、琴莉を助けてやりたいと思ったから。

少しだけ、琴莉は目を動かしてくれた。

そして、目が合った。

こんなに至近距離で目が合ったのは、何年ぶりだろう。

俺は、琴莉がこんな状態にも関わらず泣きそうになった。


「琴莉……」


次に、どんな言葉を繋げていいかわからない。

だけど何か言わずには言われない。

だから名前を呼ぶ。

ずっとこうして、琴莉と呼びかけたかった。

何度も。何度も繰り返し。

でも、琴莉から返ってきたのは……。




「誰……?」