琴莉は、1人白い部屋の中心で眠っている。

リズミカルな機械の音が、琴莉の生を守ってくれていた。

俺は窓を開けて風をそっと入れてから、琴莉の側に置かれた椅子に腰掛ける。

この風が、琴莉を起こす刺激に少しでもなればいいのに。

そんなことを思いながら、もう何度俺はこの窓を開けたのだろう。

少し考えて、やめた。

行動の数には意味がないから。

俺は、じっと琴莉の顔をいつものように眺める。

真っ白で、触れると溶けてしまうような雪のような肌。

だから俺は、琴莉の頬は怖くて触れられない。

代わりに俺は、琴莉の指先にそっと触れる。

これくらいなら、俺でも許される気がしたから。


「今日も暑いよ、琴莉」


俺はそう言いながら、ポケットから血に濡れた琴莉からの手紙を取り出す。

琴莉が俺を好きだと言う文字を、琴莉の寝顔を見ながら読む。

そして、琴莉にこう話しかける。


「俺も、大好きだよ琴莉」


だから離れていかないで。

俺に好きだと言わせて。

俺の好きを、聞いて。


そんな願いを毎回込めながら、俺は今日も許される限り、琴莉の側にい続けた。

皮肉だけど、琴莉がこんな状況になり、俺から逃げられなくなったことで、初めて俺は琴莉を捕まえられた気がした。


それを嬉しいと思う自分が、時々殺したくなるくらい憎くもなる。

そんな正反対な葛藤を胸に秘めながら、俺は琴莉の指先に願いをこめる。


「お願い、早く目覚めて」


もう俺から逃げないで。

俺はもう、琴莉しかいらない。

琴莉以外、全部捨てたんだから。