琴莉の事故から、半年以上経った。

照りつける太陽が、容赦なく人間の体力を奪っていく。

普通ならば、外出も控えたくなるこんな日だというのに、俺はいつものように外を歩き、いつものようにあの場所に行く。


「あら、今日も来たのね」

「どうも」



すでに病院の看護師さん達とは顔馴染みになっていた。

俺の姿を見かける度に、声をかけてくる人も増えていた。

どうも、時間を見つけては琴莉に会いにくる俺は看護師さんの間ではちょっとした有名人になっているらしかった。



「暑いわね。仕事は?」

「まあ……ぼちぼち」

「今日はお休み?」

「はい」


たくさんの仕事を掛け持ちしている俺は、月に1回休みがあるかないか、という状況になっていたが、今日は久しぶりに丸一日何もない日になっていた。


「こんな日くらい、クーラーが効いた部屋でゆっくりすればいいのに」

「いえ、いいんです」


普段は夜遅くまで仕事をしているからこそ、昼間を自由に使える日は琴莉に会いに来たかった。

そんな俺の心を、この看護師さんは読んだのだろう。



「琴莉ちゃんは、いつも通りよ」

「ありがとうございます」

「それから、親御さんはまだいらしてないみたい」

「……ありがとうございます」


琴莉の両親からは、すでに琴莉への接近禁止令は出ている。

それは解除されていない。

だから、最初の頃は見つからないようにこっそり琴莉の病室を覗くくらいだったのだ。

そんな俺の事情を察したのかわからないが、ある時から看護師さんたちが


「ほら、今なら会いに行けるわよ」


と、俺と琴莉の対面を後押ししてくれるようになった。

どうしてそんなことをしてくれるようになったのか、気にならないわけではなかった。

でもそれより俺は、琴莉に近づくことを助けてくれる存在がいることが心強いと思ってしまった。

そして今日もまた、そんな好意に甘えながら、俺は琴莉が眠る部屋へと向かう。