「ふざけんな!!お前のせいで琴莉が……琴莉が……!!!」


琴莉は事故にあった。

琴莉に関する変な噂が流れた。

琴莉は今死にそうだ。

そう言いたくても、声が言葉になってくれず、そのもどかしさから榎本の体を思いっきり揺さぶってしまった。

ガンガンと、壁に人間の体が何度もぶつかる音がした。


「い、……痛い!!!」

「お前のせいだ!お前の!!」

「離して!!誰か!!誰か!!!!!助けて!!!!」

「琴莉に謝れよ!!!」

「痛い痛い痛いー!!!」


噛み合わない会話は、突然終わりを告げる。


「おい!!何をしている!!!!」


俺は急に、誰かに羽交い締めにされた。


「何をしている!!松井!!!」


ドスの効いた声が、俺の耳裏から攻撃してきた。

この学校の教師だと、すぐに分かった。


「先生!助けてください!松井くんが急に……!」


榎本はさっき俺に見せた様子とは一変した、まるで自分こそが悲劇のヒロインだとでも言いたげな表情で助けを求めていた。


「大丈夫か?榎本」

「大丈夫じゃないですぅ……怖かったんですぅ……」


教師は、榎本こそが被害者だと信じている。


「松井」

「……なんですか……」

「話がある。職員室に来い」


俺がそう言われたと同時に、榎本が俺を見た。

口元だけ動かしていたが、俺には榎本がこう言ってるように見えた。



「地獄に堕ちろ」