俺のスマホには、もちろんパスワードロックをかけている。

その番号は、俺の誕生日と琴莉の誕生日をそれぞれ4桁の数字にして足したもの。

……琴莉に知られたらドン引きされそうだな、と設定をした日に思ったが、そんな数字くらいしか思いつかなかったのだ。

どこまでも俺は、琴莉のことばかりが頭をよぎっているらしい。

お互いの誕生日に誕生日パーティーに呼ばれあった小さい頃の記憶も、その時にもらった誕生日や「おめでとう」「ありがとう」の言葉は今でも鮮明に思い出せる。

きっと俺は、無意識にお互いが生まれた日に感謝していたのだろう。

だから、忘れたくなかった。

いつでも目にしていたかった。

琴莉と混じり合いたいという肉体的な欲望を、数字を組み合わせるという子供じみた方法で昇華しようとしていた。

そんな、人が聞いたら呆れるほど惨めに映る……でも俺にとっては本気の理由で作られた、俺だけのパスワード。

普通の人間には、そのパスワードにたどり着くことなんて不可能だ。


でも、このパスワードにたどり着ける可能性がある人間は、確かに数人いる。

俺の家族。

琴莉の家族。

そして……何故か琴莉の誕生日を知り


「ねえ、琴莉ちゃんの誕生日って何かお祝いするの?」


と直前によく聞いてきた……榎本だけ。

これで、榎本への疑惑はますます確実になった。