俺はそれから、あのバレンタインのことを必死で思い出した。

朝授業が始まるまでは、俺以外の人間がスマホに触れるはずはなかった。

それから授業中。

鞄の中にしまっていたし、誰も俺の鞄に触れることはなかったから、ここも違うだろう。

そうして、深く記憶を掘り起こしながら、俺は1つの心当たりを見つけた。

それは、放課後のこと。

いつものように、スマホのラインをチェックしていると、急に別のクラスの人間に呼ばれたんだった。

席から離れた時間は、ほんの2分くらい。

ちょっと聞きたいことがあるからと、教室から少し離れた場所まで連れて行かれた。

けど、結局その聞きたいことの意図が全く掴めないまま


「やっぱりいいや、ごめんね」


と言って、その人間は去っていった。

……逆に言えば、そのたった2分だけだ。

俺が、自分のスマホから離れた時間は。

この2分の間に、俺のスマホに触った人間がもしいたら、そいつが俺のラインを勝手にいじったのかもしれない。

琴莉からのメッセージに気づき、削除をしたのかもしれない。

どうしてそんなことができたのか。

なぜそんなことをしたのか。

色々な疑問が頭をよぎったが、まずは確かめなければいけない。



まず、俺のスマホに触った人間がいなかったか。





俺は急いで、クラスの人間に聞き回った。

バレンタインの時、俺の席に近づいた人間がいなかったかと。

ほとんどの人間が覚えていないと答えたが、2人だけ、覚えていると俺に教えてくれた。

1人であれば、疑惑レベルで止まったかもしれない。

でも2人同じものを見たのであれば、確かだろう。





その2人が言った名前こそ、榎本だった。