気がついた時、俺は自分の部屋の中にいて、琴莉が居ない琴莉の部屋を眺めていた。


「琴莉と会うな」


そう言われてから、俺が母親に対してどんな表情を浮かべたかも、言葉を返したのかも、全く記憶に残ってなかった。

ただ、唯一覚えていることがあるなら。


「どうして、こんなことになったのかしら」


そう、つぶやく母親の声だけ。

その言い方は、いつも母親がするような、聞いただけで感情が見えるものではなく、まるで機械音声に無理やり話させたような、抑揚のないものだった。

一体、その声に、言葉に母親が何を込めたのか。

俺は、推測することすら怖くて、シャットアウトした。

だから、どんな表情で母親がそれを言ったのかすら、俺は分からないまま。

母親は、俺のせいだと直接琴莉の母親から言われて、どう思ったのだろう。

俺のせいだと、思ったのだろうか。

思って、頭を下げたのだろうか。


「うちの子のせいで申し訳ない」


そう、言ったのだろうか。




俺は……本当に何も知らないのに。

それがまた、悔しくて仕方がないと言うのに。




むしろ、俺がもし……琴莉が俺を待っているって知っていたならば。

近くにいたならば。

俺の命と引き換えにしてでも、琴莉を事故になんか遭わせなかったのに。

そう叫びたいのに。




俺が琴莉の呼び出しに気づかなかったことも。

行かなかったことも。

それ自体は、紛れもない真実で。

だからこそ、琴莉の家族は俺を徹底的に排除することに決めて、母親経由で俺に伝えてきた。



……四面楚歌という言葉の意味を、俺はきっと初めて実感している。