「なっ……!?」


何で。

どうして。

そんな言葉が、俺の喉に突っかかり、結局声にはなってくれない。

母親は、カップに残っていた最後の一口をくいっと飲み干してから


「琴莉ちゃんのお母さんに聞いたのよ。……あなたをずっと待っていたせいで、琴莉ちゃんが事故に遭ったって」



……そう言うことか。

病院に一緒に行っても、結局俺を琴莉に会わせなかったくせに、俺と外出したがった訳。

母親が俺としたかった話は、この事だったのか……。

確かに家だと、個室という逃げ場ができる。

俺はこれまでも、親に言いたくないことを問い詰められた時は


「何でもない」


と言ってから部屋に閉じこもるという手法で乗り切った過去もある。

それを、この母親は知っていた。

そして、今までは同じ方法が何度も使えた。

それが、単なる母親の善意からの黙認であることも、薄々は気づいていた。


けれど。

今、俺は母親によって逃げ場を失くされた。

答えを聞くまでは俺を逃さない。

そう言いたげな視線が痛い。



「波音……お母さん、今まであなたの交友関係には口出ししなかった。何故だか分かる?」


その言葉から、母親が俺に対する不満があったことが読み取れる。


「あなたをね、信じたいと……思ったからよ。髪の毛の色を変えた時もそうだったし」


「……今更それを言うのかよ」


「それに」



母親は、俺の言葉が耳に入っていないようだ。



「女の子達と夜遊び歩いているのも……お母さん、黙ってあげたわよね」


要点が、掴めそうで掴めない。

母親は一体、何を俺に言いたくてこんな場所に連れてきたと言うのか。

俺は、水を一気に飲み干しながら、母親の言葉を待つしかできない。

からんっと、まだ溶け切ってない氷が音を立てた時、母親は次の言葉を俺にぶつけた。

ああそうか。それが本題だったのかと、すぐに分かった。



「琴莉ちゃんのお母さんから、2度とあなたを琴莉ちゃんに近づけさせないようにとお願いされたわ」