それから、母親は何かを俺に話していたのはわかる。

口がぱくぱくと動いているから。

でも、俺の耳にはちっとも入ってこない。

何かを言っているのは分かるのに。

それがとても大事なことだとも、分かっているのに。


「ナオ……波音!?」

「えっ?」


気がつくと、母親が身を乗り出して俺の肩を揺すっていた。

そのせいだろうか。コーヒーの滴がテーブルの上に少し飛び散っていた。


「ねえ……聞いてた?」

「あ、ああ」


嘘だ。

聞いているどころか、真っ白だった。



母親は「そう」と言いながらため息をつき、席にまた深く座る。

それから、コーヒーをまた一口飲んだ。

もう、ほとんど母親のコーヒーは空になっていた。


「波音。それでね」

「あ、ああ……」


どういう繋がりの、それでね、なのかちっとも分からないまま、乾いた声を放つ俺。

喉がガサガサする嫌な感覚だけが、俺の口元を支配する。

そんな俺に、母親は容赦なかった。



「あなたが琴莉ちゃんを振ったから、琴莉ちゃんは事故に遭ったの?」