「は……?」

全身の体温が一気に下がった感覚がした。

母親は、すごく言いづらそうに口をモゴモゴさせながら、一口コーヒーを飲んだ。

それから、ふっと小さくため息をついてから「あのね」と話し始めた。


「琴莉ちゃん、今ICUにいるのね」

「ICU……」


ドラマによって、重体の人が運び込まれる特別な病室であることは、知っていた。


「それで琴莉ちゃんなんだけど……その…………頭を強く打ってしまったみたいで……」


俺は、足から少しずつ体が震え始めていた。

頭にボールをぶつけられただけで泣いていた琴莉。

一体、どれだけ怖い思いをしたのだろう。

俺は、自分の唾が喉を通り過ぎる音を聞きながら、次の言葉を待った。

でも、聞きたくないと思ってもいた。

怖かった。

聞くべきじゃないんじゃないかとすら、思った。

けれど母親は容赦無く真実を俺にぶつけてくれた。



「琴莉ちゃん、脳に出血があるらしいわ。今生きていることがもう、奇跡に近いんですって」