今日の夜も、部屋に帰ってすぐそっと俺は自室の窓を開ける。

琴莉の部屋からはまた、微かに音楽が聞こえる。

それを聴きながら俺は、どうしてこんなにも琴莉を諦められないのかの理由を考える。



きっと、諦められるならもっと前にできていた。

それだけの時間も、機会もあったから。



だとしても、俺は今こうして、微かに聞こえるメロディーとリズムで琴莉の今を想っている。

これは何の曲だろうか?

何故この曲を聴いているのだろうか?

この曲を聴きながら、お前は今何を考えているのだろうか?

そんなことを、たった1つのヒントから深く掘り下げて、琴莉の今を知りたいと思ってしまう。


簡単に捨てられる想いなら、もうとっくに捨てている。

でも、捨てられない自分を嫌いにはなれない。

琴莉を想う自分という存在は、すでに当たり前のもの。

空気を吸うのと同じようなものだ。

琴莉を手放すということは、呼吸することを手放すということ。

つまり……その先にあるのは死ぬことと同じなのだ。

でも、そんな俺を……琴莉は怖いと言ったんだ。