それから、俺は何をしたかよく覚えていない。

気がつけば、俺は自分の教室の席にいて、授業を受けていた。

先生が「ここ大事だから覚えるように」と言ったことすら、俺の頭には入ってこない。



琴莉が、俺に付き纏われていると思っていたこと。

そして、それを怖いと思っていたこと。



そんな事実を突きつけられて、俺はどうしていいか分からなくなっていたんだ。



俺は……また何か間違えたのか?

じゃあ、何を俺を間違えた?



4月の久々の再会から今日までの自分の行動を、俺は必死に振り返る。

そこで気づく。

言われてみれば、人によっては怯えるかもしれない行動を、俺は確かにしていた。



たった一目でもいいから見たい。

たった一声でもいいから聞きたい。



そんなことだけで、琴莉が確実に通り過ぎると分かっているエントランスに、ずっと入り浸っているのだから。



何故気づかなかったのか。

気づこうとしなかったのか。

俺がしていることは、琴莉に恐怖を与えるかもしれないということに。

……違う。

やっぱり気付きたくなかった。

だって。

今の俺には、それくらいしか琴莉と繋がり続けられる方法なんて見つからなかったのだから。



「ねえ、ナオ」


いつの間にか授業が終わっていた。

まだ呆然と座っていた俺の周りに、いつものように榎本や他の女子たちが集まり始めていた。


「どうしたの?顔色悪いよ」


お前のせいだよ榎本。

お前が余計なことを言ったから……。


そんな言葉が喉まででかかって……腹に戻っていく。


「何でもない」

「えー何でもないって顔じゃないと思うけど……」


榎本は、俺の耳元で


「琴莉ちゃんのことでしょう?」


と吐息だけで問いかけた。


「だったら何だ」


今更、榎本の前で取り繕う理由はない。


「ナオさ……どうしてそんなに琴莉ちゃんばかり見るの?」

「何が言いたい」

「琴莉ちゃんも、可哀想だよ。せっかく放送部の男子といい感じなのに」

「はっ!?」


俺は思わず大声を出し、榎本の手首を思いっきり掴んでしまった。

周囲のざわつきで、空気が揺れた。