「待て!琴莉!!」


俺は必死で止めようとした。

でも琴莉は、決して俺の方に振り向いてはくれない。

榎本と琴莉がすれ違った時、榎本が琴莉に何か話しかけたようだったが、それにも琴莉は反応しなかった。

聞こえていなかった可能性もある。

たった2mくらいの距離しか離れていない俺でも、榎本が何を言っているか聞こえなかったから。

けれども、そうじゃなかったとしたら?

残された俺は混乱した。

どうして琴莉は、幽霊でも見たかのような顔を一瞬浮かべたのだろう。

俺は今、琴莉に何か悪いことをしたのか?

いや、してるのか?

俺のせいで、琴莉はまた、酷い目にあっているのか?


「どうしたの、ナオ。顔色悪いよ」

「榎本、何か知ってるか?」

「何?」

「琴莉、変わったことはないか?」

「……何で私に聞くの」

「だってお前、琴莉のことよく言ってくるから……」

「……そうだっけ?」

「そうだっけってお前……」


榎本は、まるでいつも琴莉の情報を握っているかのように、俺に話しかけてきた。

琴莉のために、こう動いた方がいいと、求めてもいないのにアドバイスをしてくる。

だから、琴莉の情報が手に入りやすいのだとばかり思っていた。


「あのさあ、ナオ……あんま言いたくなかったんだけどね」

「え」

「琴莉ちゃん、今すれ違う時に私にこう言ったんだよ」



嫌な予感がした。

耳を塞げるなら、塞いでしまいたかった。

でも、間に合わなあかった。



「ナオに付き纏われて怖い。どうにかして欲しいって」