それは、きっと神様が俺にくれた最大のチャンスだったのかもしれない。

偶然、俺がいる目の前で琴莉が転んだ。

子供の頃と同じように、地面にダイブするような転び方。

笑ってはダメなことは分かっているのに、つい頬が緩んでしまった。

可愛いと、思ってしまった。

とは言え、スカートの裾から下着が見えそうで、内心ハラハラした。

俺以外の男が通らないことを祈りながら、琴莉に近づこうとした。

昔みたいに、スカートを整えてやろうと無意識に動いてしまったのだ。

その時、足元にCDが当たった。


「誰か……!とってください……!!」


琴莉が、叫んだ。

誰かという琴莉の言い回しが、チクチクと針のように俺の心を刺してきた。

けれども、これはチャンスだと思った。

俺はすぐにCDを拾い、琴莉に近づいた。


「大丈夫か?琴莉」


そう言いながら、俺は手を出す。

普通、目の前に転んでいる人間がいたら手を差し伸べるだろう。

理性の俺は、良い人ぶっている。

でも、俺は何年も琴莉には触れていなかった。

だから、本能の部分で俺は琴莉との触れ合いを求めていることにも気づいてしまった。

記憶にある琴莉の手は、小さくて柔らかくて、少し力を入れたら壊れてしまいそう。

だからあの頃の俺は、大切にそっと繋いでいた。

今の琴莉の手はどうだろう。

あの頃よりは勿論大きくなっている。

でも、俺の手より華奢なのは見てわかる。

琴莉の手はどんな柔らかさなんだろう。

温かさなんだろう。

早く知りたい。

触れたい。

そのまま離したくない。

そんなことを考えてしまった。



そんな邪な考えを、きっと神様は見抜いてしまったのだろう。