ここまでの嫌悪感は久しく、深月は思わず口を開いてしまっていた。
 張り上げた声はかなり響いたようで、誠太郎がぽかんとした表情をしている。
 しかし、すぐに顔を真っ赤に染めて怒りだした。

「き、気持ち悪いだと!? お前、誰にそんな口を利いていると思ってるんだ!!」
「申し訳ございません、旦那様……っ」

 すかさず深月は謝罪するが、それでも収まらない誠太郎は無理やり襦袢を脱がそうと動いた。
 二人は揉み合うように攻防を繰り返し、その拍子に深月が手首につけていた組み紐が「ブチッ」と音を立てる。

(え……)

 鈍い音に深月は動きを止めた。
 視界の端に移った自分の手首には、先ほどまであったはずの組み紐がない。

(ち、ちぎれた? そんな……だってこれは、昔からつけていたものなのに)

 切れてしまった動揺が隠しきれず、布団に落ちたそれを探そうとすれば。

「お前は今夜、たっぷり時間をかけてしつけてやるからな」

 誠太郎の声が降ってくる。
 これ以上は逃げられない――そう思ったときである。

「ちち、血……血……いいにおい、ま、稀血(まれち)の、にに、においがする」

 ガシャン、と大きな音がして。
 体がふっと軽くなったと思えば、目の前にいたはずの誠太郎は、部屋の端に転がっていた。