「その名は捨てた。彼は死んだんだよ」
　それでも、彼は小子の身体をきつく抱きしめ、くちづけを贈る。
　木曾次郎源義仲は死んだのだ。ここにいるのは、その、小子を愛した男の残滓だと。
「それなら、わたしがあなたに名前をつけてあげる。あのときのあなたのように」
　小子と、名付けてくれた鬼神のように。
　そして、また、あなたに攫われるのだ。
　春を告げる匂款冬の白銀の甘い花が咲き乱れる雪深い木曾の山里で、お伽草子の結びのようにふたり、永久(とこしえ)の愛を語るため。


――fin.