「匂い袋。あれは他者を排除する呪いであり己を守護する祝福でもあったのさ」
 雪深い庭先に佇んでいた小子の耳元に、柔らかい声が届く。鈴の音が響く。あのときと同じ、美しい巫女が、血の匂いを振りまきながら、小子の前に降り立つ。赤い椿のように鮮やかな口唇が、愛おしそうに小子の名を呼ぶ。
「また逢えた。小子」
「――義仲」
 あのときの巫女は、義仲だった。小子は素直にその事実を認め、巫女装束の彼に抱きつく。