秋の終わりに義仲と出逢い、攫われる形で彼の正室になり、款冬姫と呼ばれるようになった小子。
 彼は鬼神と呼ばれるおそろしい男だと噂されていたけれど、実際はとても純情で、誰よりも小子のことを必要とする一途な男だった。
 そしてそんな彼を影で支えていたのが葵だったのだろう。表面上は仲睦まじいところなど一度も小子には見せなかったけれど。
 ふたりが信頼し合っていたから、いま、小子は自由を手に入れられたのだ。
 鬼に憑かれた姫君。その真意は、鬼となった義仲に愛された姫君。そしてまた、鬼に守られた姫君。
『あの匂い袋がなければ、款冬姫は傍にいた人間に殺される運命だったのよ』
 だから逆に呪ってあげただけ。葵はそう言って、義仲を鬼に仕立てたのだ……