東の空へのぼった太陽に照らされた雪の積もった庭先から、紫がかった煙が立ち上る。小子は泣きそうな顔で義仲の代わりに死んだ葵の首を供養する。
「親忠は、知っていたのね」
「ぜんぶ吐かせたわよ。葵が何を企んでいたか。変装の達人だからって、義仲に代わって首をとられなくてもよかったのに……」
 巴は呆れたようにたなびく煙を見上げる。いまごろ敵将の源義経は顔を真っ青にしていることだろう。何者かに義仲の首を奪われ、見張りの武将たちを皆殺しにされたと知って。残党狩りにも一層ちからを入れるに違いない。
 それでも、巴はいいと思った。もはや、義仲軍に忠臣はいない。義仲は死んだと、本人が口にしたのだから。
 あのとき義仲になりきって「小子が心配なんだよ!」と叫んだ葵。自分の寿命が残り少ないことを知っていたから、彼女は義仲と立場を逆転させ、戦場に散ったのだ。滅ぶつもりでいた彼が、巫女になって京で生き延びているのは……たぶん、葵の言うとおり。