ふだん聞く葵の声よりすこし低い巫女の険しい声に、巴は違和感を抱く。けれど、義仲の死を知って彼女もきっと狼狽しているのだと思い、指摘はしなかった。
 巫女は鈴を鳴らしながら声を震わせる。
「義仲の首を盗みに行く。そのまま、彼の隠れ家へ急がなくては……」
 間に合わない。
 巫女は苛々しながら巴に告げる。まるで、彼女自身が首を盗んで隠れ家に行きたくてたまらないとでも言いたそうに。
 何が間に合わないのか。それを巴が口にする時間は与えられなかった。
「ついてきて」
 巫女が走り出す。そしてあろうことか神社を飛び出しどこぞの貴族の邸から白い馬をすばやく盗み出す。目をまるくしている巴に「拝借するだけさ」と悪びれることなく巫女はいい、巴を自分のうしろに乗せ、全速力で疾走させる。